〜 昭和47年 〜

NHK「歌謡グランドショウ」のマスコットガールを決めるオーディションが行われた。
このときスーは高校受験の為、1カ月学院を休んでいたが、我慢できず再び通い始める。その最初の仕事がこのオーディションだった。

「田中好子、友人からはスーと呼ばれています。明るい性格で、つらいことでも顔に出さず頑張る自信があります。歌と踊りが得意です。一生懸命やります。宜しくお願いします。」

「伊藤蘭です。ニックネームはランです。何でも楽しくやる事をモットーにしています。将来は演劇をやりたいですが、今は歌と踊りで頑張ります。宜しくお願いします。」

「藤村美樹です。ミキと呼ばれています。ピアノと歌が得意です。海外のポップスや歌謡曲をよく歌っています。なんでもやります。宜しくお願いします。」

3人はオーディションに合格し4月から番組のマスコットガールとして出演する事になった。しかし初めは他の出演者の代役や荷物運びといった雑用ばかりだった。
このとき、まだ3人のグループ名は無かったが、番組のプロデューサーが「食べてしまいたいほど可愛い」と言う意味で「キャンディーズ」と命名された。

NHKのTV出演で徐々に人気が出てきたキャンディーズの3人。しかし仕事は相変わらず他の出演者の代役や荷物運び。たまに3人で歌うことがあっても他人の歌をワンコーラスだけ、ということが多かった。そんなとき、新たな仕事が舞い込んだ。
子供向けTVドラマにスーがレギュラー出演することになったのだ。

「スーちゃん、おめでとう! 私達の中で最初のドラマ出演ね。」
「ありがとう、私、演技なんてできるのかしら? なんだかまだ不安だわ。」
「大丈夫よ、学院でレッスンしたことは無駄にはならないわ。スーだったらきっと上手くできるわ。」
「うん。わたし頑張る。これで人気が出れば、3人で出られるようになるかも知れないしね。」
「3人だなんて、、、スーだけ人気が出て、私達は忘れられちゃうかもしれないわ。」
「ラン! 何を言ってるの。スーは私達の事も考えてくれてるのに。」
「仕事がある人は周りにも余裕が出来るということかしら。」
「ひどいわ、ラン。私は本当に3人でお仕事が出来ることが嬉しいのよ。ランがそんな風に考えているなんて、思わなかった。」
「そうよ、いつも3人で頑張ってきたんじゃない。もっと素直にスーちゃんのドラマ出演を喜んでもいいじゃない?」
「だって、、、私だって嬉しいのよ。3人の中の1人でも認められたんだから。でも、私だって演技には自信あるわ。なんでスーなの?」
「解ったわ。私、この仕事断る。代わりにランが出演できるように頼んでみる。」
「スーちゃん! バカなこと言わないで。ランもそんな事、言ってはいけない事だわ。」

季節は秋に変わっていた。